今回から、20巻です!

前回、ついに夏のAの事情を知ったナツと嵐。
苛酷な状況で育った安吾に、嵐はなぜそこから逃げなかったのかーと問います。

バクテリアも動き出し、不穏な空気が彼らを包みます・・。

感想です☆




小暑の章17 「-翼をくださいー」




※以下、ネタバレあり※










 <現在地>  
・春のチーム 
 ハル・のび太・・関東 夏のAの村
 花        ・・生死不明
 角又・ひばり   ・・佐渡へ
 藤子・ちさ    ・・不明 
・夏のAチーム 
 源五郎・鷭・小瑠璃・虹子・・関東 夏のAの村
 安吾・涼     ・・富士号
 あゆ       ・・東北へ
・夏のBチーム 
 ナツ・嵐・蝉丸・まつり・蛍・牡丹・・富士号
 ちまき      ・・ぞうとらいおんまる 
 百舌       ・・不明
・秋のチーム  関東 夏のAの村
・冬のチーム  東北へ




◎あらすじ◎
どうして逃げなかったんですかー?
その言葉に、安吾(あんご)は戸惑う・・。


一方蝉丸(せみまる)たちは、ミサイルのようなものが動いている場所に出くわした。
だがミサイルではないだろうし、何にもならないから気にせず行こう!
彼はそう言い、まつりも同意する。
涼(りょう)だけは、カウントダウンが刻まれているモニターに気付き、注視するのだった。

さて、ここからどう向こう側に渡るかー
皆で考えると、蝉丸が良いことを思いついたと言い、ミサイルを支える機械の上にいきなり飛び移る。

それを見たまつりと涼は芽を見張る。
だが彼は上手く飛び、向こう側の通路へとたどり着くのだった。

成功したことに、蝉丸は歓声を上げる。
だがすぐに彼は、涼に怒られたばかりなのを思い出し、謝る。
それを見た涼は息をつき、それしか方法はないだろう、とまつりを連れて自分たちも移動するのだった。


そうして全員渡り切ると、彼らは再びナツを探した。
その時、涼は何か声を聞いた気がして、耳を澄ませる。
その声は、梯子を上った先にある金網の奥から聞こえていた。

テストだ、7人に選ばれるためのテストだ!!
瞬間、涼の耳に安吾の叫び声が響いた。
後をついてきた2人も、安吾の声だ、と目を丸くする。

安吾は自分たちが経験してきたことを、説明しているようだった。
またべらべらと・・。
涼が声をかけ、制しようとしたその時だった。
嵐(あらし)の声が聞こえた。

どうして逃げなかったんですかー?

その声に、蝉丸たちは嵐だ!と喜ぶ。
だが涼は2人の口を封じ、2人の話に聞き入った。
・・逃げるー?


一方安吾も、「逃げる」という単語に戸惑っていた。
嵐はうなづき、先生を皆で縛って逃げる方法はなかったのか、と尋ねた。

その言葉に、安吾は返す。
いや、逃げるって何だ。逃げたら意味がない。
7人に選ばれなくなる。

すると嵐は驚き、訊き返した。
じゃあ納得していたということか?そのテストを受けたくて受けたのかー?

安吾は汗をかきながら、答える。
そうだ、自分で未来に行きたいと望んだ。
未来に行く7人に、何としても選ばれたいと思ったんだー

だが嵐も言った。
安吾の言っていることは何かおかしい。
今そんな苦しそうなのに、選ばれたいと思ったのが当たり前だなんて・・。

彼は問うた。
先生たちは、安吾たちに本当は何をしたのだー?!


・・それを聞いていた涼は、金網を外して先に進むことにした。
蝉丸が彼を気遣うが、涼の表情は険しかった・・。

嵐は続ける。
皆分かってて、そんなテストを受けたのか。
仲間が殺されても構わないから未来に行きたいと、皆本当に思ったのかー?
だったらそれは洗脳と同じだ!!
彼はそう諭すのだった。

それを聞いた安吾の中を、色んな思いが駆け巡る。
仲間を失い、絶望する夏のAの皆の姿・・。

俺はのばらを見たから、生死を賭けたテストだということは知っていた。たぶん涼もだ。
でも他の皆は知らなかった。
知ってたらテストを受けなかったか?いや、そんな選択肢はなかった。
逃げるなんて選択肢はなかったんだ!!

彼は洗脳なんてされていない・・と呟いた。
全部自分で考えた。
どうやって課題をクリアするか。毎回トップを取るか。
どうやったら脱落しないか。
7人に選ばれる方法をいつも考えていたさー!!

すると嵐は言った。
なぜテストを受けるのか、考えたことはあるか?と。
なぜ未来に行きたいのか、考えたことはあるか?と。

その問いに、安吾は目を見張る。
嵐の目に、涙が滲んだ。
なぜ逃げるという選択肢がなかったのか。なぜ今もまだ震えていなければいけないのか。

彼はそう言って、泣く。
なぜ嵐が泣いてるんだー
安吾はその姿を見ながら、ぼうっと考えた。

なぜ?なぜ?
どうしてそんな簡単な質問に答えられない・・。

嵐は涙を拭った。
そうして、彼は教師たちに腹が立つ、と語った。

彼が何より腹が立つのは、彼らが安吾たちにものを考えさせないようにしたことだった。
教師がしたのは、そういうことだー
その言葉に、ナツも泣きだす。

逃げることもできない世界って、どんなところだったのだろう。
あたしは逃げた。学校から逃げたのにー・・。

逃げるという選択肢のない世界は、絶対におかしいと思う。
嵐が言うと、安吾は首を振った。
違う、逃げるなんて選択肢はなかった・・
あったんですよ!!

しかし嵐がそれを打ち消した。
でも安吾たちはそのことに気付かないようにされていた。
殺されたとしても、他に道がないと思うようにされていた。
自分で選んだと思わされていた。

安吾は首を振る。
違う、違う、違うー
安吾さん!!
嵐は声を荒げた。

そのテストは、受けなくて良かったんですー!!


・・その言葉に、安吾も涼も衝撃を受けた。
安吾はその場に座り込む。
嵐は・・話した。
自分たちは皆、同じだと。

皆ここに来たいかと希望も訊かれず、勝手にここに放り込まれた。
安吾たちも行きたいと思わされ、計画者の思惑通りにここに送られた。
夏のAもBも同じなのだー
彼はそう話した。

だが今、自分たちは自由だ。
もう自分で決めていいのだ・・。

それを聞いた安吾は、じゃあ茂(しげる)は死ななくても良かったというのか?と自嘲気味に笑った。
あいつは俺のせいで死んだ、俺のせいで・・
そう一人呟く彼に、嵐は叫ぶ。
そんな状況下で起こったことに、責任なんてない!!

その時ー3人は、上方に涼の姿を見た。
その後ろに蝉丸とまつりもいるのに気付き、ナツたちは歓声を上げる。

そんな中ー涼は安吾に、言ってなかったことがある、と切り出した。
言わないほうがいいと思って黙っていたが、言うべきだったな・・。
彼はそういい、ついに秘密を打ち明ける。

あの時洞窟の中で安吾と茂が宙吊りになったとき、ロープを切ったのは茂自身だったことをー。

自分もロープを切ろうとしたが、先に切ったのは茂だった。
彼は安吾を助けるために、やったのだー

それを聞いた安吾は、嘘だ・・と呟く。
だが涼は、それは安吾が茂にそんなことできるわけがないと思っているからだ、と告げた。
茂はトロくて優柔不断で、安吾がいないと何もできない奴だーと。

だから茂が自分を助けることなんてありえない。そんなこと許せない。
そうやって一番茂を認めていないのは、安吾なんだー
彼は言った。

あの日、涼は茂のことをずっと見ていた。
だから彼が鵜飼(うかい)とやり合い、彼を森に迷わせ、それから安吾を助けに洞窟を降りたのも見てきた。
あの時の茂は、安吾より遥かに使える奴だったよー。
その言葉に、安吾は目を見張る。

お前は自分のせいで、茂が死んだと思いたいんだ。
そういうのを・・酔っている、というらしい・・。
涼がそう話すのを聞いて、蝉丸も顔を上げる。

そうしてー涼は言った。
いい加減認めてやれ、と。
茂は自分で戦って自分で決めて、自分で穴に降りて、先頭に立って壁を登った。
その結果自分で怪我をして自分でミスして、ロープを切る羽目になった。
彼は全力で全うしたんだー

彼は怒鳴った。
いいか、お前のせいなんかで死んだんじゃない。
お前を守って、自分のせいで死んだ。
それは・・奴にとって、誇りだろう?

その言葉に、安吾の瞳から涙があふれた。
認めてやれ、あいつはお前の付属品なんかじゃない。
お前の物語に出てくる脇役じゃないんだ。

いい加減、あいつを主役にしてやれよー


涼の言葉に、安吾は涙を流した。
彼の中に、最期の時の茂がよみがえる。

茂は自分を助ける、と言った。
リードして先頭に立って登ることを、嬉しいと話した。
僕が安吾を助けるなんて、滅多にないんだから。安吾の命に責任を持てるのが嬉しいーと。

そして落ちる瞬間、言ったのだ。
僕、頑張ったよねー

・・彼はそうして、ロープを切っていたのだ・・。

涼が再び口を開いた。
茂は鵜飼に言っていた。
安吾が未来に行くのだ、と。

自分で決めて自分で動いて、責任を取れるーそういう人が未来に行かなきゃいけないんだ!!

彼は茂の言葉を借り、そして安吾に告げた。
安吾よ、そういう人間になれー。


安吾は僕を信用していないよねー
茂が後ろから来て、安吾に言った。
僕はずっと、安吾と対等の友達になりたかった。

そうして並んで歩きながら、安吾は言う。
自分たちは友達だろーと。
だから成績が抜かされたらむっとする。それはライバルだからだ。

それから、彼は茂に、言いそびれたことがある、と話した。
ごめんとかありがとうとか、意地になって言えなかったこと。
茂が来てくれなかったら、洞窟の中で死んでいたこと。

助けに来てくれて、ありがとうー
彼はそう言い、微笑んだ。

すると茂は満面の笑みで笑い、安吾に手を差し出した。
未来で頑張って、安吾。またねー
そう言って、彼は消えていく・・

後に残ったのは、安吾の手だけだった。

彼は伸ばしたその手を見つめ、泣く。
いつのまにか・・動かなかった指も、正常に動くようになっていた。
皆は安吾が泣き続けるのを、黙って見守るのだった・・。


その後、彼らは再び上を目指して機械を登ることにした。
嵐に行けるかと訊かれ、安吾は彼の頬を軽く打つ。
そうして安吾もまた、登りはじめた。

登りながらー彼は秋ヲ(あきを)に言われたことを思い出す。
温室育ち・・そういうことか。

すると蝉丸が、温室育ちは悪くないと言ったのはこういうことだ、と声をかける。
やさぐれた人間が上品になることはできないけど、上品な人間はどちらにもなれるのだ。
だから気の持ちようで、なんにでもなれるさー
彼の言葉に、涼がうまいことを言う、と笑う。

安吾もそれを聞き、決意した。
彼はナツにしっかり自分の力で登れ、と声をかけ、ナツもそれに応える。

自分たちは自由だ。自分で選んで決めていいんだ。
安吾は再び涙がこみ上げるのを抑えながら、必死に登った。
再び、秋ヲの言葉がよみがえる。

自分で選んだ道には、喜びもあるんだぜー




















呪縛の解けるときー


今回は嵐の問いから、涼が秘密を打ち明け、ついに安吾と涼が過去の呪縛から解かれる話でした。

安吾と茂の別れ、涙が止まりませんでしたー。
やっと、やっと向き合えたのですね。


涼もようやく肩の荷が下りましたね。
ずっと不安定な安吾を見てきたのだから、辛かったと思います。

2人共に前に進めるようになって、本当に良かったです。



嵐の指摘も、きっとまっすぐだから効果があったのでしょうね。
夏のB特有の自由さや明るさがあったからこそ、胸に響いたのでしょう。

春や秋、冬の言葉が届かなかったのは、彼らがどちらかというと真面目で、夏のAに近かったからだと思います。
それゆえ、自分たちとは違う運命の彼らを許せなかったのでしょうね。

でも夏のBは落ちこぼれ集団です。
そんな中で、彼らもまたこの世界で生き延びようとしているのです。

そこに自分たちにはない発想があり、2人は新たな価値観に目覚めることができたのでしょう。


本当にこの2つのチームが出会えて、良かったと思います。



きっとこれで、安吾と涼は自分たちだけが特別ではないことに気づいたでしょう。
だからこそ、安吾は秋ヲの言葉をようやく理解したのですよね。

涼も、前々回でハルや新巻の言葉を思い返していましたね。
ようやくその意味に気づいたということなのでしょうー。


残念なのは、それをもう伝える機会がないことですね。
花と会う前に、嵐と出会ってほしかったな・・。
でもそうだったら、こんなに素直に嵐たちと向き合うことはなかったのかな。

花たちの一件があったから夏のBとは慎重に付き合おうとしていたし、この流れでないとやっぱり成り立たなかったのかな・・。
でもそうすると、たとえ今気付けても、花たちに彼らがしたことは消えないのですよね。


その裁きは、いつかまた受けるのでしょう。
せっかくわかり合えたのに、いい関係を築けたのに、いずれは嵐ともぶつかるのかと思うと切ないですね。

でも気づけたことは、絶対に無駄ではありません。
心から反省することができれば、いずれは皆と再び生活することもできるのではないでしょうか。

そんな時が来る予感を感じさせる、素晴らしい回でした。




それにしても、今回の嵐の言葉は、本当に名言だと感じました。

自分で決めて行動するには、逃げるという選択肢がないとダメだー

その通りすぎて、感動しました。


安吾たちに与えられていなかったのは、その権利だったんですね。
言われてみれば・・もう衝撃すぎてただただ感動です。


結局教師たちが彼らにしてきたのは、普通の生活を奪い、思考停止させ、退路を断つことだったのですね。
それが洗脳か・・なるほど。

親も家庭も知らず、他者の生活も知らず、ただただ生き抜く知恵しか与えられなかったから、夏のAは今になって苦しんでいるのですね。

夏のAの村で感じた閉塞感もそれが原因だったのか、とすっきりしました。


となれば、やっぱり夏のAに関しては、教師たちのやり方は間違っていたと断罪せざるを得ませんね。
要は失敗だったか・・?と気に病んでいましたが、はっきり失敗だった、と言えることができます。

彼らは、安吾たちから人間らしさをすべて奪ってしまっていた訳なのですから・・。



安吾たちその洗脳から解かれたので、次は要が己の業に向き合う番ですね。

夏のAが変化したことで、おそらく一番ショックを受けるのは彼でしょう。
でも、それが正しいのです。


茂への後悔と決別したので、あとは要に引導を渡せば、夏のAは完全に解放されるでしょう。
その時が、この物語の真の始まりかもしれない・・
そんなことを感じました。











さて、次回は一つ問題が解決したので、ミサイルとバクテリアの件が動き出す感じでしょうか・・。


上に向かい始めたので、そろそろ牡丹たちとも合流できるかもしれませんね。

トラウマを克服した安吾と涼、そろそろ本領発揮となるでしょうか?!

次回も楽しみです☆