今回は、7SEEDS本編の番外編ですね。

どうやら過去編のようです。
シェルターの仏像を作る物語・・

そこにはどんなドラマがあったのでしょうかー。

感想です☆




「-名もなき腕ー」




※以下、ネタバレあり※









◎あらすじ◎

太鼓が鳴り響くー
その中で、青年は仲間たちと共に彫刻を彫った。

有衛キイチと愉快な仲間たちによるノミノミパフォーマーズ。
彼らが前座を務める舞台に、貴士(たかし)はやってきたー。

舞台の終わりにやってきた彼に対応したのは、彫刻を彫っていた青年ーキイチだった。
貴士は、用件を簡潔に伝えた。
仏像を彫ってほしいーと。
政府職員という彼の名刺を見ていたキイチは、その申し出に驚くのだった。


意味を理解できないキイチたちを、貴士は由布岳にある岩盤の前に連れていった。
ここに彫ってほしいと言われて彼らは驚くが、更に驚くことに仏像は全国に7体彫ってほしいという。

そのあまりに突飛な申し出に、キイチは断ろうとする。
仏像なんて彫ったことないし、もっとちゃんとした人に頼んだほうがいいのではー
そう話す彼に、この仏像に魂はいらない、と貴士は言った。
本物でなくていい、形だけが必要だー

そう言われ、キイチは一瞬動きを止める。
失礼な物言いに仲間たちがむっとするのを感じ、キイチは自分たちも芸術家の端くれなのだが、と貴士に言う。
だが貴士は、傑出した才能があったなら、もうとっくに世に出ているだろうーと痛いところを突いてきた。

彼はそれでも、キイチたちの腕が早くて正確なのを見込んで依頼しているーと言った。
そして再び、依頼の詳細の話に戻る。

仏像を7体彫るのに、期限は17年。
その間あらゆるサポートをするし、ギャラは仏像1体につき、一人1000万支払う。
その途方もない話に、皆口をあんぐり開けた。

余りにうさんくさすぎる依頼に、貴士が帰った後、皆は大騒ぎした。
犯罪か何かじゃないのか。仏像を何に使うのかー。
疑問が噴出する中、キイチだけは一人違うことに引っかかっていた。

彼は、図星をつかれたことが一番ショックだったのだ。
魂はいらないと言われた。
どうせ自分たちの作品には、魂なんか入っていない・・
キイチは別れた妻にも同じことを言われたことを思い出す。

彼は出来婚だったので、息子もいた。
だが元妻が会わせてくれないので、2歳の時から会っていない・・。
彼はー息子に、お金を送ってあげたい、と思った。

そこで、キイチは依頼を受けることにする。
彼の決意に、仲間たちも付き合うことに決める。
ヤバい話だろうと思いながらも、彼らは早速仏像を彫り始めるのだった。


作業の様子を、貴士も見に来た。
もう1人見学に来た若い男性と共に、貴士は言った。
岩盤は固いところを選んだ。それは、年月が経っても地震が起きても凍結しても、残ってほしいからだーと。

意味が分からず、一人が何のために作るのか、と問う。
だが貴士たちは目印だ、と言う以外、詳しいことは語らないのだった。

仏像を彫るのは、意外と楽しかった。
お金も支払われ、彼らは残りの仏像についても続けることにした。
これだけのものを作れば目立つし、テレビにも出るかもしれない。
仲間がそう盛り上がるのを聞いて、キイチは息子も見るかもしれないーと考えた。

魂なんか入ってなくていい。金のためでいい。
息子に送る金のために頑張るのも、いいじゃないかー
彼は父親っぽい自分に、少し酔いしれるのだった。


月日は、瞬く間に過ぎて行った。
3体目に入ったとき、仲間の一人が事業を始めたいと言って抜けた。
ちゃんとした職に就きたい気持ちはわかる、と誰も止めなかった。

そんな中、キイチにショックなニュースが入る。
息子のために送った金を持って、元妻が母親に息子を押し付けて逃げたのだ。

事情を聞いた仲間の女性は、息子を引き取ったら?と提案する。
だがキイチはそれに、無理と答えた。
2歳から会っていないのだ。今更会いたくないだろう・・。
彼は、息子に拒否されるのが怖かったのだ。

そこでキイチは、祖母に送金することにした。
その金を息子が20歳になるまで貯めてもらって、パパからだよーと渡してもらえばいい。
彼は気を取り直して、再び作業に向き合うのだった。

キイチには、正直息子に対して愛情があるのかは分からなかった。
思い出もほとんどない。ただ、一緒に絵を描いた。それだけだ。

仏像に懸命に向かいながら、彼は思った。
お前はもう覚えちゃいないだろう。
何もしなくてごめんな。する気もなくてごめんな。

でも、この仕事だけはちゃんとやり遂げて、お前に金を送るから。
お前のための、仏像だと思うからー


ある日、キイチの元に抜けた仲間から連絡があった。
彼は最初に彫った文殊菩薩をたまたま見に行ったのだという。
するとそこで、工事をしていたのだー彼はそう話した。

その仲間も、事業に失敗して戻ってきた。
キイチたちは文殊菩薩を見に行って、何の工事をしているのかと尋ねてみた。
工事業者は、シェルターを造っているのだ、と答えた。

シェルター?
疑問を感じたキイチたちは、思い切って貴士に訊いていることにした。
彼は、あっさりと話してくれたー

貴士によれば、後5年で人類は滅びるのだという。
そしてキイチたちが彫っている仏像は、未来に送られる若者たちの目印として使われる。
仏像の下に、倉庫シェルターが用意されるのだ。

世間では、誰もそんな話をしていない。
ネットにも上がってこない。
それでも・・キイチは、その話を信じた。

自分も滅びるのだろうか。
何者にもなれないまま、息子も滅びるのだろうかー

その後も、彼らは仏像を彫り続けた。
きっと、目印は何でも良かったのだろう。
仏像にしたのは、せめてもの祈りなのだろう・・。

キイチは、千手観音に着手していた。
雪が降る中、彼らはひたすら彫り続けた。
時々涙がこみ上げるのを拭いながら、彼らは最後まで向き合ったー


そうして、期限ぎりぎりに7体の仏像は出来上がった。
最後に作った千手観音の前で、キイチたちは貴士と会う。
お疲れー
そう言って、貴士は話した。

キイチたちは、どこのシェルターにも入ることができる、と。
そして数人なら、彼らの家族や友人を入れても構わない、と。

それを聞いたキイチはー思い切って頼む。
息子を、未来に送ってもらえないかと。

彼は息子が20歳になる前にその時が来てしまうことを伝え、今息子は美大に通っていることを話した。
息子は、偶然にもキイチと同じ美大に入学していた。
知らないと思うのにー
キイチの瞳に、涙が浮かぶ。

だから、あいつを未来に・・
すると、貴士は言った。
守宮(やもり)ちまき君、候補に入れてあるー

彼は、ちまきはキイチよりも才能があるらしい、と話した。
一緒にシェルターに入る方法もあるが?
そう問われ、キイチは首を振る。
息子は、それは嬉しくないだろう・・と。

彼は再び、ちまきが未来に行けるように、と貴士に頼んだ。
あいつは社交的な性格じゃないと聞いている。大丈夫だろうかー
そう言うと、貴士はちょうどいいチームが1つある、と返した。

キイチはあふれる涙を必死に拭いながら、尚も訊く。
食べることも困る世界かもしれない。そんな中で・・
芸術家は必要とされるでしょうかー

そういう世界なら、尚更必要だと僕は思うー
貴士は、そう述べた。
キイチは、思わず顔を上げた。
その瞳を、貴士は真っすぐ見据える。

キイチくん、君が魂を込めて彫った像を、未来で息子が見るだろうー

彼は、娘と会うかもしれないな、とも言った。
その後、キイチはちまきの祖母と同じシェルターに入れてもらうことにした。
話を聞きたい、と思ったからだ。

他の仲間たちも、大事な人と共にシェルターに入ることにした。
またシェルターでパフォーマンスをしようー
彼らはそう、笑い合ったのだった・・。



花(はな)は、ちまきに声をかけた。
彼女は探索中に青い土を見つけたことを伝え、つぶして絵具にならないか、と彼に渡す。

その後も、小瑠璃(こるり)やくるみ、ナツなど、次々に女子たちがちまきの元に群がる。
その光景を見て蝉丸(せみまる)は何で、と驚くが、当然だーと牡丹が息をつく。
ちまきは物静かでソフトで、涼し気だものー

新(あらた)が、ちまきの絵を見て手を伸ばした。
絵を描きたいの?
そう笑うくるみを見て、ちまきは話した。
自分の一番古い記憶は、父親と絵を描いたことだーと。

それを聞いたくるみは、新にも絵や音楽を好きになってほしいな、とほほ笑む。

伝えたいこと、伝わったこと、伝わらなかったこと、伝えなかったこと。
それぞれに、確かにある。

見届けられるかな・・。
くるみは新を見つめ、そう呟いた。

彼らは、人の未来に思いを馳せる。
自然の中の、1つの種。
その人の、はてしないはてしない行く先をー




















未来に託す魂。

今回は、ちまきの父親のキイチが、シェルターの仏像を彫るお話でした。

息子がいると情報が出た時点で、すぐに誰の父親か分かりましたw
髪型が、似すぎ(^^)

顔はそんなに似てない気がするから、母親似なのかな?
それとも複雑な家庭環境だったから、厭世的な顔つきになっちゃったのでしょうか・・。


で、ちまきの芸術的な才能も、父親譲りのものだったのですね。
一番小さい時の思い出が、父親と絵を描いたことだというから、それを糧に生きてきたのかもしれないですね。

絵を描いていれば、いつか父親に会えるーという気持ちもあったのかもしれません。
同じ大学に行ったのも、果たして偶然だったのか・・。

でももうそれを確かめる術はないのですよね。
ちまきは、仏像を作ったのがちまきだとも知らないのです。
切ないなぁ・・。


どこかフラフラとしていたキイチたち。
作品に魂がこもっていないと言われても、反論もできない。
でもそんな彼らが、いつしか必死に仏像作りに向き合うようになるー

キイチのそのやる気の源は、息子への思いでした。
愛情はあるけれど、面倒を見る気にはならない。
面倒は背負いたくない、でも気になる・・という彼の葛藤が、感じられました。

決して褒められた父親ではないですが、それでもちまきのことはずっと忘れずに思っていたのですよね。
その思い、伝わってほしかったなぁ・・。


息子にお金を送るため、仏像を彫れば息子が見てくれるかもしれないからそのため・・。
キイチが仏像を彫る理由には、いつもちまきのことがありました。

そしてその思いは、真実を知ることによってより濃くなったのです。


キイチたちは、貴士によって、人類が滅亡することを知ったのです・・。

残す期間は、後5年・・。
余りにも短すぎます。

その事実を知り、自分たちの作っている仏像が、未来に送られる子供たちの目印に使われると知った時ー
キイチは、本気で仏像に向き合います。

彼は最後まで、時には泣きながらも、仏像を作り続けました。
その過程で、いつのまにか彼の作品には魂がこもるようになったのでしょう。


ここからキイチと貴士のラストのやり取りは、涙なしでは見られませんでした。

息子を未来に送ってほしいと頼むキイチ。
自分は何者にもなれなかった。息子もきっとこのままでは、そうなるだろう。
でも息子の場合は、彼が悪いわけではないのです。隕石によって、強制的に未来を奪われてしまうのです。

そのことを思ったとき、キイチはちまきに未来に行ってほしいと望みました。
そしてどちらが先かは分かりませんが、貴士はちまきを候補者に選んでいました。


ここは、貴士のこだわりがよく伺えますね。
彼は龍宮シェルターのときもそうでしたが、芸術家やスポーツマンなど、希望を見せてくれる人たちを選んできました。

そんな彼の言う言葉だからこそ、そこには信ぴょう性があったと感じました。
芸術家は、未来の世界には必要だと思うー

その言葉の通り、7SEEDSに選ばれた子供たちには芸に秀でた者が何人かいましたね。
ちまき、ハル、美鶴・・くるみも当てはまるのかな?

彼らは皆、仲間たちを元気づけ、希望を与えてきました。
不安や争いの中でも、芸術には人々の心を静め穏やかにする力があると思います。

それが、貴士が芸術家が必要だと思った理由なのではないでしょうか・・。


そしてちまきは選ばれ、未来でキイチの作った仏像を見ることとなりました。
彼は父親がその仏像を作ったことなど、知りません。

でも・・仏像には、確かにキイチの魂がこもっていると思います。
それが伝わったか伝わらなかったか・・それはもう分かりません。


ただ、ちまきが仏像を彫ったり慰霊碑を作ったのを見ると、その血は引き継がれているのだなーと感じます。
ラスト、そこには説明はなく、読者の想像に委ねるような終わり方となっていました。

ちまきが作った慰霊碑はいつのまにか草が蒸し、方舟の周りでは子供たちが走り回っています。
この子供たちが、皆の産んだ子供たちなのか、方舟から目覚めた子供たちなのかは分かりません。

でも彼らが築いてきた世界に、新しい命が芽吹いている・・そのことに変わりはありません。
たとえ見届けられなくても、未来に命は、思いはつながっているー

そんな、希望に満ちたラストでした。


過去に子供たちに思いを託した人たちがいる。
そしてその思いを継いで、次につなげた子供たちがいる。
その先には、彼らから産まれて繋がった子供たちがいるー

この後未来がどうなったのかは、想像するしかできません。
でもここまでの話から、彼らならたくましく生き抜いたのではないか・・と思えるのです。

生命をつなぐ物語も、ここで終わりです。
大事なことを、最後まで伝えてくれたこの作品が、わたしは大好きです。

どうか皆が、未来で楽しく生きていますように・・。
そうずっと願っていきたいと思いますー。



忙しくてなかなか更新できないときもあり、時間がかかってしまったこともありました。
それでも付き合ってくれた皆さんには、感謝の気持ちしかありません。

ここまで長い間、お付き合いいただきありがとうございました。

また新しい作品でも、よろしくお願いします☆